前編では、身近なツールを使ってシフト作成の土台を整える方法をご紹介しました。具体的には、Googleフォームとスプレッドシートでスタッフの希望シフトを収集し、Excel/Googleシートのソルバー機能でシフト表の自動割り当てを行う手順でした。これにより、従来は手作業で数時間かかっていたシフト表作成が格段に効率化し、公平で抜け漏れのないドラフトを得ることができました。
後編の本記事では、さらに一歩進めて出来上がったシフト表をスムーズにスタッフ全員へ共有する方法や、効率化した仕組みを現場に根付かせるための運用フロー整理、そして余力があれば取り入れたい追加の工夫について解説します。京都の老舗飲食店のように伝統的な職場であっても、現代のITツールを上手に取り入れることで業務改革が実現できます。引き続き、専門的な開発作業は不要で、既存のサービスを組み合わせるだけで実践可能なポイントを中心にお届けします。
1. LINE Notifyでシフト通知を自動化する
せっかく完成したシフト表も、スタッフに周知しなければ意味がありません。従来は紙に印刷して掲示板に貼り出したり、各自にメールやLINEメッセージで送ったりしていたでしょう。しかし、紙ではスタッフが逐一確認しに来る手間がありますし、メール連絡では埋もれて見落とされるリスクがあります。そこで活用したいのが、LINEのプッシュ通知です。
LINE Notifyというサービスを使えば、作成したシフト情報をLINE上でスタッフに一斉通知できます。LINE NotifyはLINE公式が提供する通知用APIで、トークン発行と簡単な設定を行えば、自社のシステムやスプレッドシートからLINEアプリ宛にメッセージを送信できます。たとえば「来月のシフトが確定しました。各自以下のリンクから確認してください。」といったメッセージを自動送信すれば、スタッフはリアルタイムにスマホで自分のシフトを確認できます。日常的に使うLINEなら大量のメールよりも見落としが少なく、確実に周知できる利点があります。
実装のハードルも高くありません。具体的には、LINE Notifyの公式サイトから自社(もしくは店長個人)用のアクセストークンを発行し、それを用いてHTTPリクエストを送るだけです。プログラミングに詳しくなくても、GoogleスプレッドシートのGoogle Apps Script(GAS)を使えば、スプレッドシートに確定シフトを入力したタイミングで自動的にLINE通知するスクリプトを組むこともできますし、難しければ手作業で実行するマクロ的なものでも構いません。要は、ボタン一つで全スタッフに最新シフトを通知できる仕組みを作っておくことが重要です。これにより、「誰に送ったか?」「既読か?」などを個別に気にする必要がなくなり、配信漏れによるトラブルも避けられます。
2. 業務フローの整理と定着化
前編から実践してきた「希望収集→自動シフト作成→通知」の流れを現場に根付かせるには、運用フロー自体を整理し、全員で共有しておくことが肝要です。一度仕組みを作っても、運用が煩雑だとかえって現場に負担となり、本末転倒になりかねません。以下のポイントを意識して、効率化フローを標準業務として定着させましょう。
- スケジュールを決める: シフト作成サイクルに合わせて、毎月(あるいは毎週)何日にフォーム配信、何日までに回答締切、何日にソルバー実行、何日にスタッフ通知、という具合にスケジュールを決めてカレンダーに組み込みます。例えば「毎月20日までに翌月分の希望提出、25日までにシフト確定・LINE通知」など明確にルール化します。こうすることでスタッフもリマインドされやすくなり、店長自身も業務計画に組み込みやすくなります。
- 手順を書き出す: 店舗の業務マニュアルや引き継ぎ資料に、今回構築した手順を明文化しておきます。「フォームのURLを一斉送信」「○○シートでソルバー起動」「結果を確認し調整」「LINE通知」など、誰が見ても分かるようにリスト化します。京都の老舗料亭のように代々店長が交代するケースでも、手順書があれば新任者も円滑に引き継げます。
- スタッフへの周知と教育: 新しい仕組みを導入したら、スタッフ側にも使い方を周知しましょう。GoogleフォームのURLの開き方や回答方法、回答期限の遵守、LINE通知を見逃さない習慣づけなど、初回にしっかり説明しておけば戸惑いが減ります。アルバイトの入れ替わりが多い場合は、面接や採用時に「シフト希望はオンライン提出で行います」と伝えておくとスムーズです。
- フォローアップ: 運用開始後しばらくは、ちゃんと機能しているか様子を見ます。フォーム未回答の人がいれば個別にフォローしたり、ソルバーの結果に無理がないか(たとえば特定の人に偏りすぎていないか)を確認します。不備があれば都度ソルバーの制約条件を調整したり、スタッフの声を聞いて改善しましょう。このPDCAサイクルを回すことで、より実情に合った運用フローに磨かれていきます。
5. 追加の工夫とさらなる展望
ここまで導入した仕組みに慣れてきたら、さらに細かな工夫や次のステップを検討してみましょう。現在のところ、新規の特別なソフトウェアを導入せずともかなりの効率化が実現できていますが、発展的な取り組みとして以下のようなアイデアがあります。
- シフト情報の共有方法を拡充: LINE通知に加えて、Googleカレンダー共有を活用すると便利です。確定したシフトをGoogleカレンダーに予定として登録し、スタッフ全員と共有すれば、各自のスマホカレンダーで自分の勤務日を確認できるようになります。これにより、「カレンダーアプリで週ごとの勤務スケジュールを見渡す」といった使い方も可能になり、シフト表を探す手間がありません。特に若いスタッフはスマホのカレンダー管理に慣れているため、導入する価値は高いでしょう。
- リマインドの自動化: シフト前日に個別のリマインド通知を出すことも検討できます。「明日の○時~のシフトに入っています。忘れずに!」といったメッセージをLINEやSMSで自動送信すれば、うっかり忘れ防止に役立ちます。これもGoogleカレンダーと連携させておけば半自動で実現可能です(GASで前日イベントを検知して送信するスクリプトを組むなど)。
- さらなる公平性の追求: ソルバーの制約条件を工夫すれば、より高度な配慮が可能です。例えば、「土日勤務が偏らないように各スタッフの土日出勤回数を均等化する」「早番・遅番をローテーションさせる」「連続勤務日数に上限を設ける」等の条件も数式化できます。最初はシンプルな充足条件だけでも十分ですが、慣れてきたらこうしたルールを組み込んでみましょう。スタッフにとって納得感の高いシフトになり、結果的に定着率アップにもつながります。
- 省力化ツールやAIの活用: さらなる発展として、RPA(Robotic Process Automation)ツールで一連の操作(フォーム配信依頼メール送信→データ取得→ソルバー実行→通知送信)を一括自動化することも技術的には可能です。また、最近話題の生成AI(人工知能)にシフト作成を手伝わせることも考えられます。実際に、ChatGPTなどに希望リストを与えてシフト表案を作らせる試みも出始めています。自前で開発しなくとも、今後AI搭載のシフト自動作成サービスが普及すれば、さらに高度な最適化が手軽にできるようになるでしょう。現状でも、今回のソルバー利用自体がAI的なアプローチ(数理最適化による自動計算)と言えますし、まずは無料で使える範囲から一歩ずつ導入してみるのがおすすめです。
まとめ:AI的シフト管理の価値とまず一歩踏み出す意義
2回にわたり、飲食店向けに新規ソフト開発なしでシフト作成業務を効率化する方法を見てきました。手作業中心だった業務にデジタルと自動化の力を取り入れることで、人間には大変な組み合わせ計算をコンピュータが肩代わりし、適切な情報伝達をITツールが補助するという、まさに“AI的”発想の業務改善が実現します。
このようなアプローチには多くのメリットがあります。第一に、店長・マネージャーの時間節約です。シフト調整に費やしていた時間を削減し、その分を売上アップの施策やスタッフ育成など他の経営業務に充てることができます。第二に、ヒューマンエラーの削減と公平性向上です。自動計算によりダブルブッキングや入力ミスが防げるだけでなく、スタッフ間で「希望が全く通らない」「特定の人に負担が偏る」といった不満も起きにくくなります。第三に、迅速な対応力です。急な予約増で京都の店舗に臨時スタッフが必要になった場合なども、データさえ更新すればすぐに再計算・再通知ができ、機動的にシフトを組み直せます。
重要なのは、こうした効果を大きな初期投資や難解なシステム導入なしに得られる点です。無料で使えるGoogleフォームや既存のExcel機能から着手できるので、「まずはやってみる」ハードルが低く設定できます。最初の一歩を踏み出せば、あとは現場になじませながら徐々にブラッシュアップしていくだけです。小規模な店舗でも今日から実践可能であり、その延長線上により高度なAI活用も見据えられます。
働き方改革や人手不足が叫ばれる今、シフト管理の効率化・高度化は飲食店経営にとって避けて通れないテーマです。まずは本記事で紹介した方法をヒントに、自店のシフト作成フローを見直してみてはいかがでしょうか。「業務効率の向上」と「スタッフ満足度の向上」を同時に達成できるAI的シフト管理は、きっと皆様の店舗経営の力強い味方となってくれるはずです。忙しい日々の中でも、一度仕組みを整えれば後が楽になります。ぜひ明日からでも、小さな改善を積み重ねて、生産性の高い職場づくりを実現してください。京都の地で培われてきたおもてなしの心も、このような現代的手法で支えていくことで、より持続可能な形になるでしょう。皆様のチャレンジを応援しております!